英語の入試問題の長文化に対応する~時間との戦いに終止符を打つために~【セミナーレポート】
公開日:2025.03.11
この記事は5162文字です。
約4分で読めたら読書速度1200文字/分。

NPO英語運用能力評価協会(ELPA)協力のもと、同協会理事長でもある、駒沢女子大学の中野達也先生より、近年の英語の入試問題に対応していくためにどのような勉強をしていけばよいのか、中学生・高校生が心がけておきたい勉強のコツやアドバイスなどをご講演いただきました。
今記事はそのセミナーのレポートになります。
はじめに
都立高校での大学入試対策に対応していた時に「センター試験が時間内に解き終わらない」という相談を受け、速読練習をすべきではないかと思い、研究や実践を重ねて「速読対策」をするに至りました。
結果、センター試験では全国平均を上回る良い結果を残してくれました。
今日の話が皆様のお役に立てばと考えています。
今年の大学入学共通テストは…

リーディングは設問文も英語になっていてかなりの語数になっています。共通テストになり約5,500語以上が定番になっています。
今年度は長文が減って語数は減りましたが、易しくなったとは考えられません。
複数の情報源から解答を引き出す必要がある問題などもあり、設問に向かい合う時間を確保しないといけません。
一般的な高校生の「英語を読む速度」は75wpmと言われていますが、共通テストをこの速度で読むと試験はそれだけで終わってしまいます。
入試問題やTOEICを時間内にきちんと解くということを考えると「150wpm」を身につけることが必要です。
※wpm(words per minute)…1分間にどれだけの語数を読めるかという指標です。
速読に必要なことは…
速読力とは「より速くより正確に読み取る力」で、具体的には「150wpmで8割以上の正答率であること」と考えています。
wpmを計測する上では「総語数」が必要ですが、考え方によってはこの「総語数」を減らすことができます。詳しくは後ほどご紹介します。
今回は、速読力向上のために必要な力を4つに分けてお話しします。
語彙力
①語彙力はなぜ必要か?
知らない単語が多ければ英文の意味がわかりません。
知らない単語の意味を文脈から推測することもできません。
よく「知らない単語は前後関係から推測しなさい」と言われることがあると思いますが、知らない単語が多ければ、推測することもできません。
知っている単語や熟語が増えれば、英文の意味がわかりやすくなり「総語数」を減らすことにもつながります。
②速読に必要な語彙力は?
一般的には「広さ(単語の中心となる意味をどれだけ知っているか・語彙サイズ)」と「深さ(派生語や反意語をどれくらい知っているか)」と言われていますが、速読に関して言えば「速さ(どれくらい速く意味を理解できるか)」も重要です。
例えば「book=本」が分かるのが「広さ」です。
語彙サイズとwpmの関係を見ると、語彙サイズが大きい人ほどwpmも速いということがわかりました。
「bookには「予約する」の意味がある」のようなことを知っているのが「深さ」です。
「速さ」については「パッと見て、すぐに意味がわかるかどうか」が大事なポイントです。
③どのように語彙力をつけるか
家庭・個人で学習するときには、基本は教科書の単語・熟語をしっかり覚えることです。
速読に関して言えば「見てすぐに意味がわかる」ということが重要です。
英単語を見て、すぐに意味が言える「クイックレスポンス」の練習をしてみてください。
学校や塾で指導する先生は、教科書の単語や熟語を丁寧に扱ってください。
決して単語帳を与えっぱなしにするのではなく、授業の帯学習などで扱うようにして欲しいと考えています。
パワーポイントでフラッシュカードを作るなどして、クイックレスポンスの練習をさせてあげてください。
文法力
①文法力はなぜ必要か?
「文法力」というのは曖昧で広い意味で使われていますが、英文解釈・速読に必要な「文法力」は、英文の構造がわかる(特に動詞(V)を見つけられる)ことと、群動詞を知っていることが大切です。
群動詞を知っていると総語数を減らすことにもつながります。
②文法力が必要な理由は?
動詞が見つけられなければ、英文の構造がわからず、書かれている内容を理解することはできません。
I like English. の場合は like が動詞ですが、The girl I met at the library is Ken's sister.ではどうでしょうか。
正解は is が動詞ですが、met を動詞として考えてしまうと意味を理解することはできません。
群動詞とは、動詞に前置詞や副詞がついて全体で1つの動詞と同じ働きをするもので、動詞だけでは出せない特別な意味を表します。
例えば、hear from~(~から連絡をもらう)や、turn up(現れる)のような表現が群動詞です。
look into~(~を調べる)は「ルック・イントゥ」ではなく「ルッキントゥ」のように続けて読まれて、ひとつの固まりのようになり、音的には総語数を減らすことにつながっています。
③どのように文法力をつけるか?
大切なことは「ふだんから動詞(V)を探しながら読む」ということです。
一般的には、動詞の前は主語で、動詞の後ろには補語や目的語が続きます。動詞を見つけることができれば、この前後の関係が把握できるようになります。
教科書や参考書等に出てきた群動詞を整理し、語彙力と同じように数を増やしていくことが重要です。
音読力
①速読に必要な音読力とは?
「英文を正しい発音で読むことができる力」と「どこで息継ぎするかわかる力」の2つが重要です。
正しい発音というのは、イントネーションも含みます。これについては後で詳しく説明します。
息継ぎをする場所が「意味の切れ目」になりますので、結果的に「文構造の理解」につながっていきます。
②音読力が必要な理由は?
速読力向上までのプロセスは、
①音声化できず、内容も理解しないまま読む
②声に出して読む(音読)
③ぶつぶつ言いながら読む(心内音読)
④声には出さないで、頭の中で音声にして読む(心内音読)
⑤音声化することなく文字から意味を理解するようにして読む(黙読)
となっていて、⑤に至るまでには結構大変です。
⑤に至る前に「心内音読(subvocalization・inner speech・脳内音読)」という段階があります。「頭の中で英文を音声にしている」という状態が「心内音読」です。
この範囲は広く、実際に声を出している段階や、唇が動いている段階なども含みますが、一番多いのは頭の中で音声にしている状態です。
そして、この心内音読は消すことは困難です。
高校生を対象に調査をしたところ、最初の調査では90%以上が「声には出さないが頭の中で音声にして読んでいた」という結果でした。
速読の練習をして1年間調査を継続した結果、心内音読の率は徐々に減っていきました。
1年後の調査では「音声化することなく文字から意味を理解するようにして読む」という黙読の段階が増えてきました。
ただ、この「音声化することなく文字から意味を理解するようにして読む」と回答した生徒の中には、「音読しようと思っても音声化できない」というグループと、「音読しようと思えば音声化できる」というグループに分かれていることがわかりました。
「音声化できない」というグループは得点やwpmが低いだけでなく、語彙サイズも小さいという結果になりました。
このように、まずは「音読ができる」ようになれば、頭の中で音声にする時にも、正確に音声化できるだろうと考えています。
また、正しく発音して、熟語や群動詞をまとめて読むことができれば、速く読むことができます。
例えば wake up は「ウェイク・アップ」ではなく「ウェイカップ」のように読むことで、音だけでなく、目で見ても「総語数が減る」と言えます。
③どのように音読力をつけるか?
まずは個々の発音を正しい発音で音読することが重要です。
そして、文字を見ながら発音するオーバーラッピングや、文字を見ないで音を追いかけるように読むシャドーイングにもチャレンジしてください。
また、時間を決めて音読するというのも大事です。ストップウォッチで時間を計測しながら、必要なwpmを体感することも練習として取り組むことができます。
要約力
①速読に必要な要約力とは?
読んだ内容を「どんな話?」と訊かれて、自分のことば(5W1H)で説明できる力が要約力です。
②要約力が必要な理由は?
入試問題は変わってきており、英文を読んで訳していては時間内に読み終わることができません。
何が書かれていたかがわかる(スキミング)や情報を探しながら読む(スキャニング)も、場面によっては必要になってきます。この意味でも「要約力」は必要です。
③どのように要約力をつけるか?
英文を読み終わったら、まずは書かれた内容を自分の言葉で言ってみるのがよいでしょう。最初のうちは日本語で構いません。
少し進んできたら、5W1Hで内容を整理することに取り組み、徐々に英語でも取り組んでみるとよいでしょう。
実際に書いてみることはライティング力の増強にもつながります。
記憶に残っていることや単語、キーワードなどをもとに、内容の再構築ができるといいでしょう。
英文速読トレーニング「ソクトレ150」


「はじめて編」が300語、「標準編」が450語でできているトレーニング用の本を出版しています。
CDには読む速さのペースメーカーとなるBGMが収録されていますし、設問(True or False)も準備してあり、もう少し深めたい場合には内容理解の設問や、要約をしたり自分の意見を書いたりすることもできます。
もちろん、記録ができるページも準備されています。
モニター調査をしたところ、スピードは速くなっていますので、信じてがんばってください。

また、3つのリーディング・ストラテジー(スキミング・スキャニング・パラグラフリーディング)をまとめた『読む英語』という本も出版しています。ご興味があればぜひお読みいただき、ご活用ください。
英語を速く正確に読む・聴く力を鍛える「速読聴英語講座」
日本速読解力協会が提供する「速読聴英語講座」では、ReadingとListeningの2技能に特化し、速読・速聴のトレーニングができます。
短く易しい文章から社会問題など大学入試に出やすいトピックまで、自分のレベルにあったコースでトレーニングすることが可能です。
単語は一覧形式以外に、フラッシュカード形式で学習することもできます。また、単語テストの1問の制限時間は8秒で、クイックレスポンスの練習ができます。
文字を見ながら発音するオーバーラッピングや、文字を見ないで音を追いかけるように読むシャドーイングの練習もすることができます。
速読トレーニングはリーディング演習時にwpmを計測し、そのスピードに合わせた速度で展開されます。
駒沢女子大学教授
NPO英語運用能力評価協会(ELPA)理事長
中野 達也先生
公立中学・高等学校での英語科教員を経て、2016年4月より駒沢女子大学に着任、2024年7月よりELPA理事長に就任。2022年度NHK『中学生の基礎英語レベル2』講師。中高教員時代より、英語の速読力向上のための研究・実践を行い、2013年度第48回ELEC賞を「速読力向上を目指した指導」にて受賞。