中学校でのキャリア教育~目的や内容、取り組み例をご紹介~

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キャリア教育は小学校から実施されていますが、中学校に進学後も継続して行われます。
将来について具体的に考えたり、社会の仕組みに深く関心を持ったりと、キャリア教育が影響する部分も増えてきます。

今回は中学校においてのキャリア教育について解説します。

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キャリア教育について

変化が大きい環境の中で生きている子どもたちにとって、早い段階からキャリアについて考えることはとても重要です。

キャリア教育とは?

文部科学省はキャリア教育の定義として以下のように示しています。

一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育

キャリア教育は、「子ども・若者一人一人のキャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な能力や態度を育てることを目指すもの」としており、 自分らしく生きるために、「学び続けたい」「働き続けたい」という思いを実現させていくのがキャリア教育だとした上で、キャリア教育の定義を提示しています。

参考:文部科学省 中学校キャリア教育の手引き

導入の背景

文部科学省では、キャリア教育が必要となった課題・背景として以下を挙げています。

課題

【学校から社会への移行をめぐる課題】

  1. 社会環境の変化
  2. 若者自身の資質等をめぐる課題

【子どもたちの生活・意識の変容】

  1. 子どもたちの成長・発達上の課題
  2. 高学歴社会における進路の未決定傾向

背景

学校教育に求められている姿「生きる力」の育成
社会人として自立した人を育てる観点から

  • 学校の学習と社会とを関連付けた教育
  • 生涯にわたって学び続ける意欲の向上
  • 社会人としての基礎的資質・能力の育成
  • 自然体験、社会体験等の充実
  • 発達に応じた指導の継続性
  • 家庭・地域と連携した教育

このような課題と背景をもとに、子どもたちが「生きる力」を身につけて、様々な課題に柔軟かつたくましく対応して、社会人として自立していくことができるようにする教育が求められているということから、キャリア教育が本格的に始動しました。

参考:文部科学省 中学校キャリア教育の手引き

中学校で実施する目的

小学校の時期と比較して、中学校では社会での自分の役割について考える時間が増えていきます。
人間関係が広がったり、自分と社会の関係性を見つけたりすることで、自身の生き方について向き合っていきます。

ちょうど高校受験を前にして、将来の進路や大学進学などを考える必要のある時期ですね。

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中学校でのキャリア教育は「現実的探索と暫定的選択の時期」と発達段階を称しています。 成長とともに心と体が発達する子どもたちは、発達過程に合わせたキャリア教育を行うことで、自分と働くこととの関連付けや人生について適切に考えることができるのです。

参考:文部科学省 中学校キャリア教育の手引き

中学校で学ぶキャリア教育の内容

中学校のキャリア教育が目指すところ

では、具体的にどのような目標を掲げて、中学校でのキャリア教育を実施していくのか見ていきましょう。

中学校におけるキャリア教育の目標

  • 肯定的自己理解と自己有用感の獲得
  • 興味・関心に基づく勤労観・職業観の形成
  • 進路計画の立案と暫定的選択
  • 生き方や進路に関する現実的探索

各校に応じた社会的、職業的自立に向けて必要な能力等

  • 人間関係形成・社会形成能力
  • 自己理解・自己管理能力
  • 課題対応能力
  • キャリアプランニング能力

を全教育活動を通して、体系的に育てることが大切です。

参考:文部科学省 中学校キャリア教育の手引き

次に、各学年での学習内容を解説します。

中学1年生のキャリア教育

期待と不安を抱きながら入学してきた中学1年生。
教科別に先生がいたり、部活動があったり、定期テストがあったりと、小学校とは大きく違う学校生活が始まりますよね。中には、そういった変化になじめず「中1ギャップ※」に陥ってしまう子どももいます。
中学校1年生でのキャリア教育は、そのような子どもの心の発達に合わせて慎重に実施していく必要があります。
また、学校行事や生徒会活動など集団の中で役割を担う機会も増え、人間関係が広がる時期であります。
さらに、職場訪問などの活動を通して、さまざまな職業について興味がわいたり、将来に対するイメージを膨らませたりしながら、実現するにはどうすればいいか考えていきます。

※中1ギャップとは、明確に定義されているわけではありませんが、一般的に中学校へ進学した際に、小学校生活とは異なる新しい環境になじめず、授業についていけなかったり、学校に通えなくなったりする現象のことを指しており、ここでも同等の意味で用いております。

達成例

(1)自分の良さや個性が分かるために
中学校生活のガイダンスや諸検査、学級活動などを通し、中学校生活に適応できる環境や自分自身の良さを知る機会をつくる。
[実践例]

  • 自分を知ろう
  • 適性と進路

(2)自己と他者の違いに気付き、尊重しようとするために
各教科などでの学習を中心として、自分の考えを適切に伝えることのできる能力を身に付けるとともに、相手の考えを受け止める態度を養う。
[実践例]

  • 中学校生活の目標を立てよう
  • 調べたことを発表しよう

(3)集団の一員としての役割を理解し、果たそうとするために
学級や委員会、生徒会等の諸活動を通し、自主性を高める。
[実践例]

  • 学級の組織をつくろう
  • 体育祭を盛り上げよう

(4)将来に対する大まかな夢やあこがれを抱くために
職業調べや職場訪問などの活動を通し、将来の生き方に興味をもたせる。
[実践例]

  • 将来の夢を語ろう
  • 職業を知ろう

参考:文部科学省 中学校キャリア教育の手引き

中学2年生のキャリア教育

2年生になると学校生活にも慣れ、新入生を迎えて先輩としての自分の役割にやりがいを感じる時期です。
中学校で「真ん中の学年」としての立場や役割を自覚しながら、どのように過ごしていくべきかを考えていくことが大切です。
そのために、自分の特性や能力を生かしながら、学校生活を計画的に過ごし、意欲的に取り組もうとする姿勢を、キャリア教育を通して身につけていきます。

達成例

(1)自分の言動が、他者に及ぼす影響について理解するために
様々な人とかかわりながら、より良い生活や学習、進路、生き方などを目指すことの大切さを理解する。
[実践例]

  • 充実した生き方を探る
  • 行事を盛り上げる

(2)社会の一員としての自覚が芽生えるとともに、社会や大人を客観的にとらえるために
職場体験やボランティア活動等を通し、勤労の意義や働く人々の思いを理解する。
[実践例]

  • 働く人々に学ぼう
  • ボランティア活動をしよう

(3)将来の夢を達成する上での現実の問題に直面し、模索するために
キャリアカウンセリングなどを通し、自分の適性を知り、諸活動に生かしていく。
[実践例]

  • 社会の一員として生きる
  • 自分の適性、自分の進路

参考:文部科学省 中学校キャリア教育の手引き

中学3年生のキャリア教育

3年生はいよいよ最終学年、そして義務教育としての最後の年です。
自分が思い描いている将来イメージに対する具体的な進路選択の時期を迎えます。
子どもにとってはもちろん、親にとっても重大な選択でナーバスになりがちな時期です。
中学校生活最後の年を充実して送るために、自らの課題に積極的に取り組み、希望と抱負を持って卒業を迎えられるような準備をしていきます。

達成例

(1)自己と他者の個性を尊重し、人間関係を円滑に進めるために
今までの諸活動で得たことを自らの学習や生活に生かそうとする。
[実践例]

  • 実りある生活と学習
  • 進路の選択に備えて

(2)社会の一員としての義務と責任を理解するために
体験活動を通し、社会における様々な役割を理解するとともに、社会と自己のかかわりから自分の特徴に気付き、自分らしい生き方について考える。
[実践例]

  • ボランティア活動に参加する
  • 社会の一員として生きる

(3)将来設計を達成するための困難を理解し、それを克服する努力に向かうために
様々な人からの意見などを参考に、自らの進路計画を立て、目標の実現に向かい努力を続けることの大切さが分かる。
[実践例]

  • 充実した生き方について考える
  • 進路を考える

参考:文部科学省 中学校キャリア教育の手引き

中学校卒業後のキャリア教育は?

高校でのキャリア教育

中学校では、社会においての自分の役割や将来について深く考え、選択する経験をしますが、高校では、さらに実践的なキャリア教育がプランニングされています。
自分が社会でどのように生きていきたいかを真剣に考える機会を与えることで、進学もしくは就職といった卒業後の進路を自ら選びとっていく力を身につけていきます。

活動内容を記録する「キャリア・パスポート」

小学校から高校までに取り組んだキャリア教育の活動内容を記録して残す「キャリア・パスポート」という制度が、2020年から始まりました。
中学校でも基本的に小学校と記入内容は変わりません。がんばったことや目標、将来の夢などをキャリア・パスポートに記入します。ただし、実現するために必要なことや自己PR欄など発展した内容になっています。
自分が経験したり学んだりしたことを可視化することができる上、小学校から高校までの活動を一貫して記録することができるので、自己評価や目標達成に役立てることができます。

まとめ

キャリア教育が進路選択の大きなサポートに

  • 変化の激しい社会で自立して生きていくためにキャリア教育が必要
  • 学年に応じた過ごし方を通じて、自分の役割や将来の選択を熟考していく
  • 「キャリア・パスポート」は、小学校から高校まで学んだり身につけたりしたことが記録できる

キャリア教育の「キャリア」は、いわゆる「経歴」とい意味ではなく、「将来、子どもたちが自立して生きていくための学び」です。中学校では学年ごとに自分の役割が持てることで、自身の立ち位置を考えたり、将来のイメージを具現化していくための選択を迫られたりします。わくわくする反面、不安や悩みを抱えることも多くなる時期ですので、家庭でも日頃から学校生活や将来について話せる時間を作れると良いですね。

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