小学校でのキャリア教育~内容や導入背景は?~
公開日:2023.06.08
最終更新日:2023.06.06
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2020年度から実施された新学習指導要領で、小学校でのキャリア教育が明確に提示されました。
ただ、内容や必要性について具体的にイメージできる方は少ないのではないでしょうか。
未来を生き抜いていく子どもたちに必要なキャリア教育について解説していきます。
目次
キャリア教育について
変化が大きい環境の中で生きている子どもたちにとって、早い段階からキャリアについて考えることはとても重要です。
キャリア教育とは?
文部科学省はキャリア教育の定義として以下のように示しています。
一人一人の社会的・職業的自立に向け,必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して,キャリア発達を促す教育
キャリア教育は、「子ども・若者一人一人のキャリア発達を支援し,それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な能力や態度を育てることを目指すもの」としており、 自分らしく生きるために、「学び続けたい」「働き続けたい」という思いを実現させていくのがキャリア教育だとした上で、キャリア教育の定義を提示しています。
導入の背景
文部科学省ではキャリア教育が必要となった背景として、情報化・グローバル化・少子高齢化・消費社会等の社会環境の変化があるとしています。
子どもたちの生活・意識の変容
- 子どもたちの成長・発達上の課題
- 高学歴社会における進路の未決定傾向
学校教育に求められている姿
「生きる力」の育成
社会人として自立した人を育てる観点から
- 学校の学習と社会とを関連付けた教育
- 生涯にわたって学び続ける意欲の向上
- 社会人としての基礎的資質・能力の育成
- 自然体験,社会体験等の充実
- 発達に応じた指導の継続性
- 家庭・地域と連携した教育
このような課題と背景をもとに、子どもたちが「生きる力」を身につけて、様々な課題に柔軟かつたくましく対応して、社会人として自立していくことができるようにする教育が求められているということから、キャリア教育が本格的に始動しました。
小学校で実施する目的
小学校でのキャリア教育は、6年間を通し、全ての教科において意図的かつ継続的に行っていきます。
小学校は子どもの成長も著しい上、自立する心を育てる重要な時期なので、人、社会、自然、文化とかかわる体験や活動を積極的に実施します。
そのように、学校生活や日常生活を通して、子どもたちが自分の「役割」を通した経験を積み重ねることで、「自己の生き方」について考えることができるようにすることが、小学校でキャリア教育を実施する目的となっています。
小学校で学ぶキャリア教育の内容
小学校のキャリア教育が目指すところ
では、具体的にどのような目標を掲げて、小学校でのキャリア教育を実施していくのか見ていきましょう。
小学校におけるキャリア教育の目標例
- 自己及び他者への積極的関心の形成・発展
自分及び他者の大切さに気付き,家族や友達・周囲の人々にかかわりながら積極的に働きかけようとする能動的な子ども。- 身のまわりの仕事や環境への関心・意欲の向上
身のまわりには様々な仕事がたくさんあることに気付き,そこで働いている人の思いや願いを探ろうとする子ども。- 夢や希望,憧れる自己イメージの獲得
得意なことや好きなことを生かして将来なりたい自分の姿を描いたり,目標をもったりすることを通して,できることをやり尽くそうと努力する子ども。- 勤労を重んじ目標に向かって努力する態度の育成
係活動やお手伝いなど,その場で自分にできることを見つけて進んで実践しようとしたり,目標をもって努力しようとしたりする意欲をもった子ども。
キャリア教育として特定の科目は設けておらず、目標に基づいた様々な内容を「特別活動」として実施していきます。
次に、各学年での学習内容を解説します。
1・2年生でのキャリア教育
1・2年生では、「好きなこといっぱい できることいっぱい 学校って楽しいな」をコンセプトに、自分の好きなこと、得意なこと、できることを増やして、興味・関心の幅を広げていき、自信をもって活動できることに重点を置いています。
達成例
- 返事やあいさつをする。
- 決められた時間や約束を守る。
- 友達の気持ちを考える。
- 身近で働く人の様子が分かり,興味・関心をもつ。
具体的な活動事例として、道徳で「決まりを守ることの大切さ」や「自尊感情を育てる」授業を実施したり、学級活動として当番という役割を通じて集団の中で責任を果たす経験を積んだり、町探検をして地域で働く人々や職業へ興味・関心を深めるという体験をしていきます。
3・4年生でのキャリア教育
3・4年生では、「自分と 友だちと みんないっしょに」をコンセプトに、友達のよさを認め、協力して活動する中で、自分の持ち味や役割が自覚できるようにすることを重点に置いています。
達成例
- 友達と協力して学習や活動に取り組む。
- 働くことの楽しさが分かる。
- 自分の意見や気持ちを分かりやすく表現する。
- いろいろな職業や生き方があることが分かる。
具体的な活動事例として、地域のお店を手伝うことを通して働くことや学ぶことへの意欲向上や、科学館などに出向いて学習していることと将来がつながっているという体験をします。
また、新指導要領「話すこと・聞くこと」の指導事例と言語活動例の具体化を図った「言葉によるコミュニケーション能力を高める」という項目もあり、国語科以外でも各教科でも育成を重視していて、キャリア教育の一環にもなっています。
5・6年生でのキャリア教育
5・6年では、「挑戦する やりぬく 夢・希望を広げる」をコンセプトに、苦手なことや初めて挑戦することに失敗を恐れず取り組み、そのことが集団の中で役立つ喜びや自分への自信につながるようにすることを重点に置いています。
達成例
- 自分が挑戦したい役割を選択する。
- 思いやりの気持ちをもち,相手の立場に立って考え行動しようとする。
- 社会と自己のかかわりから自分の特徴に気付き,自分らしい生き方や憧れる生き方について考える。
具体的な活動事例として、勤労観・職業観を育むための工場見学、子どもたちがイメージしやすい有名人を例に出して、夢を持つことの大切さや目標に向かって努力する心情を育みます
また、外国語活動を通じて、広い視野を持って自分の生き方について考える機会を与えることで、キャリア教育の視点から能力や態度を育成していくことも望ましいとしています。
小学校卒業後のキャリア教育は?
中学校・高校でのキャリア教育
小学校でのキャリア教育で、職業の種類やその役割を学ぶことを経て、中学校・高校では、多くの学校で職場体験を取り入れた実践的なキャリア教育が行われています。
より近い現場で実際に見聞きすることにより、自分が社会でどのように生きていきたいかを真剣に考える機会を与え、進学もしくは就職といった卒業後の進路を自ら選びとっていくことを目的としています。
活動内容を記録する「キャリア・パスポート」
小学校から高校までに取り組んだキャリア教育の活動内容を記録して残す「キャリア・パスポート」という制度が、2020年から始まりました。
キャリア・パスポートにはがんばったことや目標、将来の夢などを記入します。
自分が経験したり学んだりしたことを可視化することができる上、小学校から高校までの活動を一貫して記録することができるので、自己評価や目標達成に役立てることができます。
まとめ
キャリア教育は未来を生き抜くために必要な学び
- 変化の激しい社会で自立して生きていくためにキャリア教育が必要
- 小学校では身近なところで様々な経験を積んで、6年間を通して職業や社会の仕組みを学ぶ
- 「キャリア・パスポート」は、小学校から高校まで学んだり身につけたりしたことが記録できる
キャリア教育の「キャリア」は、いわゆる「経歴」とい意味ではなく、「将来、子どもたちが自立して生きていくための学び」です。特に心身ともに成長が著しい小学生が、働くことの意味や人と社会の繋がりを身近に感じることは、これからさらに変化が激しくなっていくであろう未来を生き抜くために、とても重要な糧となります。家庭でも働くことや社会での役割について話をする時間を作ってみてはいかがでしょうか。
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